ねえ、こんなこと言っていいのかな?

私ね、巴さんが死んだ時、あなたがあとを追わなくて本当によかったと思う。




























だって・・・・







あとを追っていたら・・・私、あなたに出会えなかったもの・・・



































だから巴さんにも「ありがとう」って思うの

巴さんのおかげで剣心に出会えたんだもの・・・
























でもそれ以上に・・・







































巴さんを憎いと思うわ・・・

今でもあなたに愛されている巴さんを・・・

私は憎まずにはいられないの・・・
























だからねぇ、剣心。

たとえ今があなたにとって地獄でも・・・




私、あなたを逃がしてなんてあげれないよ・・・














































あの人の前では、私は常に笑っていなければいけない。

それはあの人を心配させない為

あの人に哀しい思いをさせない為

あの人を安心させる為

あの人に・・・必要とされる為・・・

でも、本当は、本当はあの人の為ではなくて・・・



私が、あの人に捨てられないようにする為・・・



あの人には私の無邪気な微笑が必要だから。
あの人が必要としているのは、私の穢れを知らぬ微笑。
犯してきた罪の重さに耐えかねて、あなたの心は救いを求めてる。
普通の「剣客」として生きる理由を、その指標となるものを欲している。
「緋村剣心」という不殺の流浪人を形成するために必要な指標。
それが私の「笑顔」だとあの人は言う。
人斬りという罪を背負っている、剣心の心の闇を理解していない、否・・・できない幼い私の笑顔。
穢れのない、無邪気でまぶしいほどの笑顔・・・。
「薫殿の笑顔は、皆を幸せな気分にしてくれるでござるよ」
それは自分も例外ではないと、あの人は言う。



・・・そう、私は確かに幼かった。



人の苦しみなど何もわからない子供だった。
心の中に醜い欲望なんてもっていなかったのかもしれない。
でも・・・そんなことはずっと昔のことで、今の私はそんな笑顔なんてできない。
表面でいくら笑っていても、あの時のような笑顔なんかじゃない。



それでも私は笑う。

なるべく優しく見えるように。

剣心を安心させられるように。

精一杯楽しそうに笑う。

醜い本心を隠しながら・・・。








それでも、そんな私でも、あなたは私を必要としてくれますか・・・?















ねえ、剣心・・・

もしも、もしも私が・・・










剣心が、前に私に言った言葉。


「拙者は・・・怖いでござる。無垢な薫殿を穢してしまうようで。拙者の汚れた手で汚してしまうようで怖い。」


結ばれる前・・・初めて接吻をした夜、剣心が私に語った本心。
私は迷うことなく答えた。


「私は・・・たとえ剣心のせいで汚れたと誰が言っても、剣心がいてくれるならそれでいい・・・。」


そっと、胸に顔を埋めた私を、剣心は強く抱きしめてくれた。
私の語った本心。


でもたとえば
私が無垢でなかったとしたら、自分が触れたばかりに穢れが私に移ったのだとでも言うのでしょうか。
自分のせいだと責めるのでしょうか・・・。




あなたは、なにも悪くないのに・・・。








剣心は間違っている。

私は始めから無垢なんかじゃない。


私の綺麗な部分だけしか見ないで、それが「私」だと思わないで。


そうでないと私は、あなたの理想からかけ離れている自分を認められなくなっていく・・・。
























私も・・・巴さんのように

あなたのために死んでみせたなら

あなたは
私を巴さんと同じ場所に
あなたの”特別”の場所に
置いてくれますか?
冷たくなった躯を抱いて
私のためだけに泣いてくれますか?
























結ばれる前は考えもしなかった事。
前の私なら、何があっても剣心と共に生きていきたいと思ったはずなのに。
たとえ剣心が私を見ていなくても、それでも私が死んだら剣心が苦しむから、そんなことだけは絶対にさせられないと、私はなにがあっても死ねないと思っていたのに。


けれど・・・今は違う。


剣心がどんなに苦しんでも、剣心の”唯一”になりたいと思ってる。
その為だったら、死んでもいいとすら思える。
この先剣心が私のことだけを見てくれるなら、私は死んでもいいと思えてしまう。
この自己満足でしかない独占欲が、いつの間にか私の心に巣食っていて、剣心の目に留まるもの全て、剣心の触れるもの全て、あげくには剣心がかつて愛した巴さんにまで向けられる嫉妬心。



-----私は巴さんより愛されたい。------


-----身代わりだなんて嫌だ。私だけを、見ていて欲しい。-----


-----誰も、何も剣心に触れさせたくない。----



いつからこんなに欲張りになったんだろう。
剣心と共に生きていけるだけで幸せだと思っていたのに。
剣心が、私に手を差し伸べてくれただけで、巴さんのお墓に連れて行ってくれただけで、認められたような気がして、それだけで他に言葉はなくても幸せだと思えていたのに・・・。
気がついたらそれだけでは足りなくなっていた。
剣心は私を愛してくれている。必要としてくれている。そう思っているのに・・・。





















そして

私はあなたの傷のひとつになって

いつまでも忘れずにいてくれますか?

雪を見て巴さんを思い出し
花びらのような白い結晶に切なそうに微笑むように
あなたが似合うと言ってくれた
桜の花を見るたびに
藍色のリボンを見るたびに
私にも微笑んでくれますか?

その花弁に
口付けをしてくれますか?























降りしきる雪の中、あなたが呟いた一言。
「巴・・・すべてが終わったら俺も逝くよ。だから・・・」


---それまで、この人の側にいさせて欲しい---


そんな言葉で私が喜ぶと、剣心は思ったのだでしょうか・・・。
私はそんなに無欲じゃないと、なぜ気がつかないのでしょう。


死が二人を分かつまで。だなんて、私にはそれでは足りない。
死が二人を分かつことがあったとしても、それでも私は剣心と一緒にいたい。


巴さんが死んでも剣心の側にいるように、私も・・・
私は剣心の横顔に無言で問いかける。

あなたがいつか逝くその瞬間(とき)、最期に思い浮かべるのは誰ですか?

私を、あなたと共に連れて逝ってはくれませんか?




置いて逝くくらいなら連れて逝って欲しいのに・・・。




死ぬ瞬間ですら私以外の人のことを考えて欲しくないと願う私は、あなたにふさわしくないのかもしれない。
否、死んでからでも私以外の人を見るだなんて耐えられない。
だから私は剣心よりは先に死ねないし、かといって死んで巴さんの元へ逝って欲しくないから剣心を死なせなどしない。
そんな理由で「私はあなたを守る」だなんて言っている私。
そんな私を
あなたは愛してくれますか?










ねえ、剣心・・・
あの頃の笑顔を失った私を
笑顔という仮面をつけた私を
あなたは本当に
それでも私を
愛していると言ってくれますか?























あなたにとって私が「代わり」でしかなくても
私にはあなたしかいないんだよ?
だから・・・だから・・・









例えあなたにとってこの世が地獄でも
生というものが苦痛でしかなかったとしても
私は絶対に






















あなたを死なせてなんてあげられないよ・・・